季節の移ろいは早いもので、今年も残り3ヶ月余りとなってしまいました。

振り返ってみると公私共にそれなり色々ある年でしたが、診療上で特に気になったのは猫の難治性疾患が多くなった印象です。以前のブログ猫の心不全 でも触れた心臓バイオマーカーによって簡単に発見診断可能な「猫の心不全」、お腹や胸に水が溜まったりする「伝染性腹膜炎」などが代表的かと思います。

 

特に猫好きなオーナーさんなら、伝染性腹膜炎などは最近クラウドファンディングで費用を募る方法なども行われていてご存知なのではないでしょうか?この伝染性腹膜炎(FIP)、昔は不治の病で診断難しく、診断確定してもそこからの治療法も無く時間の問題とされてる病気(死の宣告と恐れられた病気)でした。

 

検査会社から最近聞いた話だと今は検査数多く時間もかかってるという事でしたが、多分ネット等で話題になって猫オーナーさんが心配で病院に駆け込んでるのかもしれませんね。昔はブリーダーさん等の多頭飼い環境が発症の大きな要因とも言われたけど、最近は一般家庭でも3〜5匹程度の多頭飼いは多いですし、そういう意味では案外珍しくもない病気になりつつあるのかもしれません。

 

原因は「猫コロナウイルス」というウイルスがストレス等の免疫力低下によって「猫伝染性腹膜炎ウイルス」に突然変異し、これが「嘔吐、下痢、発熱、食欲不振、腹水、胸水」などの症状を引き起こすというものです。一説には半数程度の猫が感染してるとされ、さらに発病に至るのは15匹中一匹程度とも言われています。

 

 

治療薬は以前から行われてる輸入物の「ムティアン」が有名ですが、他にも新型コロナウイルス治療薬の米メルク社「モルヌピラビル」があり最近日本でも買える様になった金額は1カプセルで2千数百円します。ちなみに米国では今や他の新型コロナ治療薬の需要が大きく、この薬は最後の選択肢と言われているようです。

 

焦点:コロナ飲み薬モルヌピラビル、米国では「最後の選択肢」

[31日 ロイター] – 米メルクが開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「モルヌピラビル」は一時期、コロナ治療を一変させると期待された。しかし米国の関係者らによると、今では入手可能な治療法4種類の中で「最後の選択肢」と位置付けられるようになっている。有効性の低さと、安全面での潜在的なリスクがその理由だ。

ロイターは6カ国以上で12を超える医師、医療システム、薬局に取材。大半はモルヌピラビルについて、より有効な選択肢が使えなかったり入手できなかったりする場合を中心に、限定的にしか処方していないと説明した。

 

 

 

よく耳にする「治療費100万位」というのはこれらの高価な内服薬によるものです。色々問題はらんでいるけど現状正規ルートで購入出来るのはモルヌピラビル位で、そのため先生(ある有名講師の先生)によっては先述のムティアン(中国産特許侵害コピー商品)を否定される方もおります。一般に大学附属動物病院だとコンプライアンス上使用は控えていて、あくまで指導という形にとどめている様です。

 

ただオーナーさんにしてみたら正規品であろうがなかろうが、座して最後の時を迎えるより助かる可能性がより大きい治療にかけてみたいでしょうから難しい問題です。ちなみにムティアンで治療行ってる病院は、協力動物病院リストによると東北では今現在仙台の病院1軒のみとなっています。ネット情報だとこれも非正規ルートではあるけど、新型コロナ治療薬で有名な「レムデシベル」注射も効果がかなり期待出来るようです。

 

 

For Family Members(ご家族向け)

猫伝染性腹膜炎(FIP)

発病した猫の治療は、本当に有効な方法がまだ見つかっていないので、症状を和らげる対症療法が主体となります。というのも、猫の体内のウイルス自体を殺す薬はないし、またどのようにして発病するのか不明な点が多いからです。したがって病気の進行を遅らせ、猫の不快感をある程度改善する効果は期待できますが、完治の為の治療ではないことを理解して下さい。獣医師は全身状態を評価した上で、治療が可能かどうか判断します。現在ではインターフェロンによる治療も試みられています。

 

現在行われているFIP抗体検査は、本当にFIPウイルスに感染しているかどうかを検査するものではありません。単にコロナウイルスと接触があったかどうかがわかるだけのものです。高い値がずっと続いているのはもちろんよいことではありませんが、健康状態はよく、抗体が下がって行く傾向がある場合には、コロナウイルスの感染が終結に向かっているとも考えることが可能です。

 

 

 

一応難治性疾患の定義なるものがあって、以下のようになっています。FIPは原因不明ではないので、感覚的にはともかく違うのかもしれませんね。

<難治性疾患の定義について>

( 1)原因不明、治療法未確立、かつ後遺症を残すおそれが少なくない疾病

(2) 経過が慢性にわたり、経済的問題のみならず介護等に著しく人手を要する