ある猫専門病院の統計では来院理由のおよそ3割が『猫上部気道感染症』だそうですが、当院でも猫の伝染病による来院比率は比較的高く、ここ最近は毎日のように診察で訪れる子がいる位増えて来ている印象です。いわゆる『猫カゼ』とも呼ばれる感染症で症状は主に「目ヤニ・鼻水・くしゃみ」ですが、なかなか頑固でしつこい感染症で「猫カゼ」と言えども子猫の場合は致死率も高くなるので馬鹿にできません。
感染経路ははっきりしない場合も多く、都会のマンション暮らしで一歩も外出しない子でも発症してる事から、一説にはオーナーさんが外で他の猫と触れ合ったりそういう環境に入った事で手指や洋服や靴底に付着してなどとも言われますが、未だ世間を騒がせてる新型コロナ同様ウイルスは目に見えるものでもなくどこで感染してもおかしくない気もします。
最近はドッグランやペットホテル(ペット美容室も?)でもワクチン接種証明書が求められてるけど、最低限コアワクチンと呼ばれる3種混合(ヘルペス・カリシ・汎白血球減少症)だけはしっかりやっておきたいものです。ワクチンに関しては結構難しい問題もあって長くなるので、次回のテーマとして取りあげてみようと思っています。なお今現在当院において、ヘルペス・カリシに加えて汎白血球減少症も10数年ぶり位に発症が見られています。まだお済みでない方は是非とも早めにワクチン接種される事をお勧めいたします。
あと多頭飼育してる方も最近は結構多いのですが、たまたま拾ったりして保護した子が伝染病やノミ・ダニ・腸内寄生虫など持ってたために全頭感染してしまったケースもあり、新しく迎え入れるときは最低限見た目的に問題ないかどうかや、可能な限り検査等行って問題無さそうならワクチン接種後1〜2週間経ってから接触させた方が無難かと思います。
⬇︎ この感染症(猫カゼ)の原因は「ヘルペス」や「カリシ」といったウイルスや、「クラミジア」「ボルデテラ」という細菌感染によるものが代表的とされています。いずれも「目ヤニ・鼻水・くしゃみ」は出やすいけどある程度特徴的パターンがあり、1番強くそれら症状出やすいのが「ヘルペス」、さらに口腔内症状も出やすいのが「カリシ」、クラミジアはどちらかというと結膜炎や目ヤニといった眼の症状が強く現れ、あまり耳慣れない「ボルデテラ」は咳が特徴的症状で稀には犬や人間にも感染すると言われてるので、呼吸器症状出してる子には必要以上に顔を近づけてのスキンシップは避けた方が良いかもしれません。(なお例によって、これら画像は近いうちに削除予定です)
⬇︎ これら感染症の診断は「PCR検査」や「細菌培養検査」で確認と一応なってるけど、PCRの場合検査感度はあまり高くなく実際の検出率は半分にも満たないようです。おまけに臨床症状出してない健康そうな猫の目からも陽性反応出たりと、PCR検査に関しては臨床症状や治療経過で考えていく方が近道と言えるかもしれません。早い話PCRでウイルス確認出来ればまだしも、もし陰性で出てしまったら限りなく「???」という疑問符しか残らないでしょう。
クラミジアの場合は結膜スワブといって綿棒のような物で結膜を拭って検査期間に出すのですが、臨床現場では治療内容にほとんど大きな違いはないので当院ではあまり積極的にお勧めしていません。実際ほとんど多くの子は抗生剤の内服と目薬によってかなり改善するので、現実的にはあまり確定診断の必要性はないように感じています。
⬇︎ 今回セミナーで1番タメになったのが実はコレです。治った(落ち着いた)と思ったら数週間あるいは数ヶ月後に何度かぶり返す子がいて、「多分免疫的に何か問題あってぶり返すか、あるいは再感染でもしやすいのかな?」などと自分では思ってたけど、実は「ヘルペスは一度感染したら末梢神経の中に潜んで生涯にわたって潜伏感染し、生涯キャリアーとなる」という事実で、完全に私の勉強不足でした。
それがステロイドホルモンやストレスが引き金になって何度でも再燃したり、又キャリアーとなって他の猫にも移す可能性がある(感染源)というものです。こうなると症状出してる保護猫をワクチン未接種の子に近付けるのは大いに問題あると言えそうです。とりあえずワクチン未接種で無症状ならまずはワクチンを!という結論になりそうです。
最近生後1ヶ月も経つかどうか位の子猫を保護して来院されるケース、何故か非常に多くて驚いてます。子猫の場合「飢えと寒さ(低体温)」ですぐ亡くなってしまうけど、幸い季節がらか発見も早いからか割と元気そうな子も多いけど、中にはまだ数百グラム程度なのに目ヤニ・鼻水出していかにも猫カゼっていう感じの子もちらほらです。
⬇︎「母猫からもらって来たのかな?」とは思いますが、ただしこれは胎盤感染ではなく生後直接発病してるであろう母猫から感染してしまうという内容になってます。既にお話しした様にヘルペスは一生潜伏感染するわけですが、出産や授乳というストレスによって母猫の体内で再燃・発病して子猫に感染という流れです。
ここで重要な点は親からの免疫は授乳によって獲得されるので、もし生まれてすぐ人口ミルクだけの生活になると子猫には感染予防に必要な抗体が全く出来ません。親に少なからず免疫があれば授乳によって子猫にも抗体が出来(移行抗体)、この移行抗体が切れるであろう1〜2ヶ月頃になって発病するという、、ヘルペスとは本当になんとも厄介なウイルスですね。ちなみに生後3週齢未満の子猫はくしゃみ出来ないそうで、全く年齢不詳でもくしゃみさえしていれば少なくとも3週齢以上の子猫という目安にはなりますね。
ところでこの親からの『移行抗体』はワクチン打つ際にも非常に重要なキーワードで、ワクチンを生後どのくらいから何回接種するのが望ましいか?というテーマに深く関わってきます。