キャンサー(かに座、癌)についての話をと前回言ったけど、実はあまりに漠然としてる上相当これは多岐に渡るテーマでした。なのでセミナーでちょうど御高名な先生が只今講習なさってる、『乳腺腫瘍の外科』について今回は取り上げてみようと思います。

 

キャンサーが「かに座」というのはご存知の方も多いかと思いますが、もう一つ「癌」という意味もあります。癌が周辺に伸びて行く様子がカニの脚に似てるというのが由来です。調べてみるとどうやら古代ギリシャの医師ヒポクラテスが、乳癌を「カニの(脚の)様なという記述をしていたそうで、これが広く伝わって「癌」はカニを意味する言葉になったと言われているみたいです。

 

 

⬇︎ カニの甲羅部分に見える癌だけど、、

⬇︎ 実際は、カニの脚の様に癌細胞は伸びてるという意味です。

⬇︎ 今回お世話になった先生は、前回の先生と全くタイプ違ってまったり語り口調です。

 

 

なお今回のブログ、なるべく分かり易い様にと書いたつもりですが少し難しい内容になってるかもしれません。大まかなイメージだけでもある程度感じ取って頂ければ幸いです。

 

 

⬇︎ 細胞診と組織検査の一致率は概ね約9割となっており、たとえ細胞診で『良性』と出たとしても、およそ3〜4割の確率で悪性の可能性があるようです。やはり安心は全く出来ないという感じです。なので特に乳腺腫瘍の診断においては、摘出した物を検査して確定するのが1番間違いないという結論です。なお部分切除してそれを組織検査した上で改めて手術という方法もあるけど、どうせ全身麻酔入れてやるなら最初から全切除でやった方がという事で、現在先生の所ではほとんど最初から完全切除で手術を行ってるそうです。

⬇︎ 当院でオーナーさん説明用にファイルしてある物です。2匹とも(左右とも)良性と悪性が入り混じっている結果となっています。

 

 

サージカルマージン(外科マージン、3センチマージンなどと言われてます)をどの位見込んで腫瘍を切り取るかは、腫瘍の性質と大きさ、発生部位、動物の年齢や状況によっても違うでしょうが、一般的には肉眼的に見て腫瘍から水平方向で3センチ、縦方向(深さ)で筋膜もしくは筋肉の一部までとされています。なにしろ腫瘍は『カニの脚』の様に四方に伸びてると想像出来るわけですから、腫瘍ギリギリの摘出ではあまり意味をなし得ません。ただし深さは筋肉を覆っている筋膜が筋膜バリアとなって癌細胞をブロックしているため、多くの乳腺腫瘍の例では筋肉を温存できる(つまり筋膜切除のみ)とのお話もありました。

 

次は、じゃあ実際どれだけの乳腺組織を摘出したらいいのか?という問題です。昔は左右どちらか1個あるだけでも、片側乳腺全切除➕避妊手術が当たり前でした。もし左右に1個ずつあるなら、左右両方とも全部乳腺切除➕避妊手術という事になります。ところがこれも今や色々データが出てきております。先ず避妊手術については以前にもお話した通り2歳を過ぎての手術は予防効果に有意差無しとされており、今回のセミナーの先生も同時に避妊手術は行っておりませんでした。

次に切除範囲は、乳腺片側全切除ケースは複数個ある場合であり、1個のみの場合は周辺乳腺含めた部分切除でもその後の発生率に有意差無しと結論づけられています。これには乳腺部周辺のリンパ系と静脈血の流れが関係しています。よって先生も今回説明されてた手術では周辺乳腺含む部分切除となっています。切除範囲が少なければ時間的にも動物の(体力的)負担的にもリスクは減るかと思います。

 

 

⬇︎ 何が何だか分かりづらいでしょうがご参考になれば。たとえ小さな乳腺腫瘍でも意外と傷は大きくなるものだとご理解頂けたらと思います。

⬇︎ 犬の乳腺腫瘍例ですが、黒丸内にそれぞれ大きい腫瘍があります。

⬇︎ 手術直後の写真。胸部にテンションかかり過ぎて呼吸障害引き起こす可能性あるので、右胸部にメッシュ状の切れ目が入ってます。私もここまで細かく綺麗ではないけど、乳腺腫瘍の手術では時々行ってる手法です。ちなみに細かいメッシュ状になる程、組織の血行不良から皮膚が壊死してくるリスクも増します。毛も伸びてくるとはいえ、術後の傷跡もそれなりでしょうからバランス難しいかもしれません。

⬇︎ 当院でのオーナーさん説明用のだいぶ昔の写真です。これは腹部左右の乳腺切除ですが、肥満気味でテンションかかり過ぎて全く縫合出来ないためスリット入れてます。美的センスも多少要求されるかもしれません。

⬇︎ ちなみに乳腺の発達少なく縫合時にテンションそれほどかからなければ、スリットは入らないので以下の写真の様に割と綺麗に終わります。つまり乳腺が発達してる子ほど大がかりなものとなります。

 

⬇︎ 我々の間では以前より、「炎症性乳癌には手を出すな(手術するな)」と言われてる乳癌です。理由は展開が速い事と、手術がきっかけで活発化して急激に悪化する例もあるからですが、ただ私は何度か手術を行ってて、中には数回手術行って数年間延命出来たケースもあります。結果論としか言えないでしょうが、そういう例も中にはあるという事を知っておいて頂きたいと思います。

⬇︎ ご覧のように厳しい報告になっています。

 

今回の乳腺腫瘍は割と多く見られる腫瘍であり、実際手術も皮膚の腫瘍に次いで多い様に感じます。もし機会あったら次はこれも比較的多い脾臓腫瘍や口腔内腫瘍、他には心不全や慢性腎臓疾患などもテーマにしてみたいと思っています。

 

 

話全然変わって、あるwebセミナーの会員登録数は7300人超なんですが、これってすごくないですか?獣医師と言っても開業獣医師から勤務獣医師、県庁や市役所保健所勤務の獣医師、一般企業勤務の獣医師など色々ですが、おそらくこういうセミナー登録なのでほとんどが小動物関連の獣医師かと思います。その7300人全員が同じ時間帯に視聴する事もないだろうけど、やっぱりオンラインならではのセミナーと感心するばかりです。リアルなら受け入れる会場もかなり限られるでしょうね。

 

 

 

 

 

 

⬇︎ 素晴らしい建築物の造形美。動画のセンスも凄いと思います。