猫の問題行動の最終編、今回は『攻撃行動』についてです。

 

 

と、その前に、、

以前にもお話ししたかと思うけど当院では犬と猫の比率が今や逆転?してる感じで、昔に比べると猫の来院数が大幅に増えています。それはペットフードや関連商品の幾つかの販売会社の売上からも分かるそうです。予防注射や予防薬等も当然増えてきており、それに伴って猫の『トイレ等の問題』や『飼い方(接し方)』、治療にまつわる情報やセミナーも多くなってきました。病院スタッフは今回講師のセミナーを以前学会等で受けてる様だけど、私はお名前だけは存じ上げてるという程度だったので非常に有意義なオンラインセミナーとなりました。

 

『十年一昔』とはよく言われるけど医療関連情報の変化も又相当に大きく、昔はコレが当たり前コレがスタンダードと言われる様な事がガラッと変わり、ある治療薬や手術等においても「もうコレじゃなきゃダメ!」みたいな状況へと変化してきています。ましてや今ではオーナーさん自ら事の真偽はともかく色々な情報に触れる機会も多いので、我々も積極的に情報を求めて行かないと乗り遅れてしまう時代となりました。

 

獣医師の業界雑誌も幾つかあってそれぞれ色々な治療等の情報は得られるけど、やはりセミナーで生の声を聞いての講習は本当に特別で、本では得られぬ『ニュアンス』や『コツ』はリアルセミナーならではと思っていました。ただ一方大都会と違って地方で一人でやっておられる先生方は私も含めて、なかなか土日休診にして大都市(ホテル・ニューオータニ)(学会)(仙台)の講習会に出掛けるというのも一仕事ではありました。

 

 

ですが何とも皮肉と言うか、、今回のコロナ禍でオンラインセミナーは花盛り。

今まで病院休診にした上さらに時間もコストもかけていたのが、自宅に居ながら少しのセミナー費用をクレジットカードで支払い、見逃し配信(ほとんどは期間限定)であれば自分の好きな時に好きな格好で好きなだけ受講出来ます。席取りの心配も無く(コレ結構大きい)、寝そべってでもビール飲みながらでも自由、周りに気を遣って病院とのやり取りやトイレのために会場を退席する必要も一切無し。でもまあ観光と気分転換兼ねて大都会に出かけるのも実は嫌いじゃないんですけどね、、。

 

 

さてと、今回も前振りが長くなってしまいました。本題に入ります。

 

⬇︎ 今回のセミナー内容はざっとこんな感じですが、本当に役立つ情報満載でした。開業以来いつもワンコはおりましたが猫を飼うのは今の2匹の前には1匹のみ、幸いウチは皆んな比較的攻撃的ではなかったので(病院内に連れてくると結構豹変したりします💦)、なかなか攻撃的な子に対する対処方法も実戦で覚えることも無く来てしまいました。やはりそういう子は少なからずいるようで、「ウチだと大人しいんだけどな、、」というお言葉もたまに頂戴いたします。100%これで大丈夫!という正解も無いんですが、少しでも皆さんの今後に役立つ内容であれば幸いです。

 

 

⬇︎ 当院は狭いながらも猫専用待合室あるけど、さらに高い所好きの猫のために一工夫したりタオル掛けして目隠しするのが良いようです。ちなみにうちの猫専用入院室のケージの一部は、入院ストレス解消のためと奥の方にステップ出す事が可能です。ただうちはペットホテルをやっておらず、点滴等で本当に具合悪い子ばかりの入院なので、未だかつて一度もソレが活躍した事はありませんが、、。

⬇︎ 動物を治療等で抑える事を『保定』と呼んでます。

⬇︎ 不妊手術の際の麻酔前投与で、静脈注射する様子です。お預かりしてケージに入るとガラッと変わって全く触れなくなってしまう子もたまにいるので、可哀想ですがネットに入れさせて頂いて、必要とあれば更にこの様にタオルを巻いて前脚だけ出して注射を行います。

⬇︎ ブラッシングを嫌がる猫ちゃんの場合、この様に厚紙(写真は牛乳パック使用)にチュール等のおやつを付けて舐めさせながら行うと良いようです。昔はワンコのしつけ等では上手に出来たら都度ご褒美をって覚えたもんですが、猫の場合そもそも調教というのが困難なので、こうやっておやつで条件付けしながら覚えさせていくわけですね。

当院でも最近はよく犬でも猫でも初めからチュール等おやつで釣る感じにして、ちゃんとさせてくれたら褒めてご褒美をあげるというパターンも増えて来ました。中には診察代上がるとすぐにもう、物欲しそうにこちらをキョロキョロ見る子も居るぐらいになりました。ここまで来ると大成功ですね。

⬇︎ お薬飲むのも目薬をやるのも、合間合間にチュールなどやりながらトレーニングします。

 

⬇︎ キャリーの奥にチュール置いて入る練習します。こうすれば比較的慣れるのも早いかと思います。

⬇︎ 昔に比べて本当に多頭飼育のオーナーさん増えた気がします。うちもそうだったけど、やはり子猫の方が先住猫には受け入れられるのは間違いなしです。自分のテリトリーに入って来るのが自分より大きかったり喧嘩強かったら、そりゃやはり相当なストレスになってしまいますよね。

 

 

この他には飼い主への攻撃行動に対する対処方法や、薬物治療による方法等ありました。薬物治療は専門的内容になるので割愛しますが、飼い主さんへの攻撃行動に関してはネットでも見つけたので掲載しておきます。

 

 

猫が飼い主を攻撃してきて怖い…どうすればいい? 猫の気持ちを考えて対処しよう

ねことの暮らし相談室
 猫と幸せに暮らすヒントや困りごとの解決法を、獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が教えてくれます。連載6回目は「猫が攻撃してくる時」です。

「猫がトラみたいになって私を襲う」

私がまだ大学病院で行動学の勉強をしていた時の話です。あるクライアント様が、「とても怖くてお家には入れないの。うちの猫がトラみたいになって私を襲うの」と訴えられたことがありました。

たった4キロの猫でしたが、お母さんに対する攻撃性は半端ではなかったようで、トラに化けていたようです。お母さんにとっては笑いごとではありません。飼い猫に攻撃をされて怖い思いをされている方は実は結構いらっしゃるのです。

猫は遊んでいるつもりでも

猫はなぜ愛して世話をしてくれる飼い主を襲ってしまうのでしょうか?理由はいろいろありますが、最初にご紹介したいのが、遊び誘発性の攻撃行動です。

猫さんは遊んでいるつもりなのでしょうが、人にとびかかっていってがぶがぶかみつく「遊び」は我々にとっては恐怖でしかありません。

 

狙いをつける猫
猫は遊んでいるつもりでも…

 

最初にご紹介した猫さんも実は遊び誘発性の攻撃行動をする猫だったのですが、飼い主が仕事から戻るのを玄関のドアの影から待ち伏せし、玄関が開いたとたんに暗闇から飼い主の顔をめがけて飛んで行っていたようです。

もちろん「ママ帰ってきた!遊んでー!」と飛びついていたのでしょうが、暗闇から猫が顔に飛んでくることを想像するとちょっと怖いです。

こうした遊び誘発性の攻撃行動の対処として、まず、ご紹介している暗闇から顔に飛びつくトラさんのように感じる行動に関しては、危険なので、お出かけするときは寝室かリビングに閉じ込めていただき、その留守番をさせていた部屋を開ける際には、隙間を開けて様子を見て、おもちゃをもってそっちに気持ちを向けさせてからドアを開けるようにお伝えしました。

ルールを決めて猫と遊ぶ時間を

多くの遊び誘発性の行動は、やはり猫の遊びが足りないから起こっていると考えられます。猫さんは人間が大好きで、特に若い猫さんは遊びも大好きです。やんちゃなので、人に飛びつくような遊びを発案する子もいます。

ぜひ、遊ぶときは、素手で遊んだり、とびかかってきたときに「ダメでしょう!」と言いながら相手をしてあげるのではなく、おもちゃにとびかかる、というルールを教えていただきます。

例えば、夕食後は必ず一生懸命一緒に遊ぶ、などルールを決めて猫と遊ぶ時間をとっておいてください。賢い猫さんたちは、遊ぶ時間があることを学習するとその時を待って遊ぶようになるでしょう。

 

遊ぶ猫
ルールを決めて猫と遊ぶ時間を

 

猫の心理も幼い子どもの心理も実は一緒です。私も小さい時は普段遊んでくれないお父さんに遊んでもらうために、寝ている父の布団に飛び乗って父の反応を見たり、わざと仕事中に邪魔をしました。

そして痛いからやめろと怒られていました。しかし、遊んでくれるお約束をしてもらうと、その時間までは一人でテレビを見て待つなど、自ら父の気を引くためのいたずらをしないで待てました。

いたずらは結果的に怒られたりするし、結果的に遊んでもらえないので待つ方が得だからです。ぜひ猫ちゃんとは遊ぶ時間をとってたくさん遊んであげてください。

不安や恐怖から攻撃してしまうことも

遊び誘発性の攻撃行動以外でよくあるのが、不安・恐怖と葛藤からの攻撃行動です。

以前伺ったお話ですが、台所仕事をしていた際に猫さんが台所に入ってきたとき、偶然その瞬間圧力なべが「ピー!」という音を立ててしまい、猫がその音に驚いて飛び上がって逃げたそうです。その日から、お母さんが台所に立って、ちょっと動いたりするとお母さん背後からお母さんを襲うようになってしまいました。

 

不安そうな猫
強い不安が攻撃行動につながることも

 

どうも、台所にお母さんが立つと非常に怖いことが起こる可能性がある、と学習し、お母さんが台所に行くと、勝手に強い不安を感じ、それがお母さんに対する攻撃行動へとつながったようです。

対処法としては、食事の準備の前に猫を寝室に入れておき、食事の準備が終わったらまた出してあげる、ということをしていただきました。家族の誰かのことに対して恐怖を抱き、急に激しく攻撃することはよくあります。

今回お話ししたように、環境を工夫して攻撃性を回避できればよいのですが、そうではない場合は、不安・恐怖や葛藤からのいきなりの攻撃行動に対しては、お薬を使って治療することができます。もともとすこしのストレスで激しい攻撃性が出るようになること自体、脳の機能異常がもともとある場合が多いため、お薬が有効になります。

体罰は「百害あって一利なし」

遊びからの攻撃行動にしろ、不安・恐怖と葛藤からの攻撃行動にしろ、絶対に行ってはいけないことは体罰を与えることです。

体罰を与えることで飼い主のことがもっと怖くなって、余計攻撃性が増したり、あるいは猫と人の関係が壊れてしまうことになります。体罰は百害あって一利なし、です。

攻撃性であったとしても、猫の気持ちを考えて、対処をしていきたですね。

(次回は1月10日に公開予定です)

【前の回】猫のいたずらや悪さを止めたい! 「やってはダメ」とどう伝えればいい?

【入交先生に聞いてみたいこと募集中!】
猫の困った行動や、なぜこんなことをするの?と疑問に思っていることなど、入交先生に聞いてみたいことを教えてください。連載テーマの参考にさせていただきます。入力は、こちらのボタンからどうぞ!

入交 眞巳
獣医師。どうぶつの総合病院・行動診療科主任。旧日本獣医畜産大学卒業後、米国パデュー大学で学位取得、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。アメリカ獣医行動学専門医の資格を有する。