今回は当院の「不妊手術の術前検査」についてのお話しです。

ご存知の方も多いとは思いますが、今現在当院においては不妊手術前に簡単な血液検査を行なっています。何年か前まではご希望される方のみに行なってましたが、検査すると若い子でも予想以上に数値引っかかる子多く(感覚的には2〜3割程度の子に異常値見られます)、とりあえず最低限として「腎臓と肝臓」の項目(犬の避妊手術は更に血液凝固機能検査も)だけを不妊手術とのセット料金という形で実施しており、そして万一異常値の場合はオーナーさんの承諾を得て更に追加検査という流れとなっています。それ故単に不妊手術というよりは、プラス簡単な健康チェックという意味合いで考えて頂いてもいいかもしれません。

ちなみに猫の場合任意ではあるけど「猫エイズと白血病」のウイルス検査の検査も同時に行なってるで、まだこれまで一度も検査で確認されてない子であれば今後のためにも受けておく事をお勧め致します。

 

 

 

⬇︎ 右側茶色の猫は、この春亡くなった我が家の猫チャロ(享年17歳)です。この子は私にとって動く教科書みたいなもので、治療においてのちょっとしたコツや投薬方法あるいはその大変さなど身をもって知る事が出来ました。特に猫の場合「ダメなものはダメ、頑として受け入れません!」みたいな感じの子っているので、「しつけ」や「学校」でどうにかなるわけでもないので、可能な範囲内で可能な治療を行うというのもアリだな〜と思うようになりました。

 

いわゆる「顎ニキビ」では薬用シャンプーで洗うのに一苦労したし、慢性腎臓病での投薬では薬のやり易さやりにくさ等分かったし、そして糖尿病で毎朝インスリン注射してると隠れて居なくなってしまったり、ちなみに糖尿病治療で最大の難問難関「自宅で採血して血糖値を測る」とういうのは病院スタッフにやってもらったので苦労無しでした。我々獣医師は動物の病気を診るのは当たり前で、更にそれぞれ動物の個性やオーナーさんの環境なども考慮しながらやっていく必要性を改めて感じさせてくれる猫でした。

 

 

 

さて今回のテーマである血液検査の見方読み方を深掘りするととんでもない程悩ましく、あくまで不妊手術前の血液検査という最低限の項目だけのお話です。通常ほとんどの子で腎臓の項目はあまり問題無いけど、引っかかりやすいのが肝臓の検査項目でALT(GPT)と呼ばれる肝酵素です。この酵素は肝臓でアミノ酸という物質の「代謝」に関わる働きをしており、肝細胞などの破壊があると血液中に放出されて異常値を示すものとされてます。今回も少し複雑で内容を整理しながらアップしていく予定なので、どうか皆さんよろしくお付き合いお願いいたします。(なお画像は例によってそのうち削除予定です)

 

 

 

⬇︎ 代表的肝酵素として「ALT(GPT)」「AST(GOT)」「ALP」「GGT」が挙げられてますが、当院では現在スクリーニング検査(ふるい分け、選別検査)として「ALT」「AST」「ALP」を通常行なっています。検査結果は一つの異常値だけ取り上げて肝疾患を診断するのは極めて困難で、他の数値や症状も含めて総合的に考えていく必要があります。

 

特に成長期で動きの激しい若い子の場合は肝酵素の数値異常が比較的出やすいとも言われており、一つの軽度異常値のみでハイリスクな不妊手術とはとらえてませんがここら辺はオーナーさんの考え方もあるのでご相談の上決定しています。過去にはびっくりする程異常値だったり猫エイズや白血病に感染してる子もいたけど、さすがにこうなると手術の是非について要検討になります。ただ通常不妊手術はほとんどが1歳未満の子ですので、先天的要因さえ無ければ高齢の子に比べて比較的安全な手術と言って良いかと思います。

 

ちなみに今でこそどこの病院でも術前検査は当たり前のようにやってるけど、昔は不妊手術はおろか他の手術においても血液検査無しで普通にやってた時代があります(外注検査だったりコストアップが理由だったり)。これはうちのスタッフでさえ「信じられない!」と言うけど、手術用手袋さえ着けずに全国どこでも割と普通に素手でやってた時代もあります(さすがに大昔の話です)。

 

 

⬇︎ だいぶ時間経ってしまいました。下記2枚のスライド写真についてどうまとめようか考えてるうちに、他オンラインセミナー視聴も相まってどんどん時間過ぎ去ってしまいました。

こちらの先生なかなかユニークなお方と思って見てましたが、結構衝撃的でキャッチーなタイトルです。超難関有名大学の附属動物病院勤務の先生ですので、「ヤブ」と言いたくなってしまう一般開業医も多いんだろうなと想像します。「肝不全」はほとんどもう末期に近い病態なので、見た目ピンピン単に少し肝酵素上昇してるだけでコレ言ったらたしかに「ヤブ」でしょうが、ただここはおそらく紹介などの2次診療で来院するケースが多いはず。当院でもたまに転院されて来られるオーナーさんおられますが、これまでの治療内容等お聞きして「?」と思ってしまう事もごく稀にある現状からすると多分こちらの病院では日常茶飯事的に多い気がします。

時間経てば記憶違いも勘違いも人間誰しもありますし、勿論私も含めて出来るだけ自分の落ち度はないように伝えたいのも人情でしょう。あとあえてその「ヤブ」先生の弁明をするなら、特に地方の一般開業医は附属動物病院の先生と違ってほぼ全科診療です。肝臓は勿論腎臓も消化器も皮膚科も眼科も歯科治療も、そして日常割と多い伝染病や糖尿病&甲状腺などの内分泌や骨折や避妊等の外科手術まで含めてほとんど全て行なってる状況です。内科のそれぞれの権威の前では赤子のようなものかもしれません。ちなみに、過去に肝硬変や肝臓癌も何度か見てるけど意外と肝酵素は必ずしも大幅上昇してるわけではないので、「肝酵素と重症度や予後とは全く関連しない」は私も本当に実感してます。それにしてもびっくりマーク「!!」2本ていうのも気持ちが伝わってきますね。

 

⬇︎ 実は1番悩んでいたのがこちらの「“とりあえず”で、療法食を出すんじゃないっ!(怒)」です。食事療法は意外と言ってはなんだけど本当に奥深いです。人間もだけど食事療法「たかが食事されど食事」で年々我々の業界でもその重要性は増してきている感じです。泌尿器系や消化器系、肥満・糖尿病や皮膚疾患など多くの製品が今現在出回ってます。恥ずかしながら私はほとんど食事療法に関しては有能なスタッフ任せですが、全ての食事について語らせたら多分1時間や2時間では全く済まないでしょう。

 

全スタッフ食事療法においても勉強熱心で精通してますが、更に当院には処方食メーカーのHill’sから「フードアドバイザー」スパイシーの認定受けてるスタッフもおりますので安心して任せています(丸投げ状態)。1番の売れ筋はやはり昔から泌尿器系食事療法の食事ですが、他にもダイエットや消化器系、アレルギー疾患多いせいか皮膚関係の食事もそれなりです。

 

さて実はこのスライドの本題はこれからなんですが、「肝機能障害(肝酵素異常)においての食事療法の重要性」についてです。結論から言うと肝酵素の軽度異常のみで処方食を与える必要性はあまり無く、それどころかむしろ肝臓の食事を与えてはいけない状態の子もいるので要注意です。肝臓や腎臓や膵臓更には心臓や消化器などの食事は特別な物で、蛋白質と脂肪や塩分やカロリー等がそれぞれ適した比率で配合されてるけど、「あちら立てればこちら立たず」な事がよくあり、例えば膵臓の治療してる子に肝臓の食事は脂肪過多なので絶対ダメ。あくまで病気の優先度によって各食事の使い分けが必要となっています。もし他に食事療法しているなら、ほとんどのケースにおいてそちらを優先すべきと言われてます。最近はお手軽にスーパーやネットで購入出来る製品も多いですが、こと肝臓の食事に関してはやみくもに与えてはいけないという事を知っておいて頂きたいと思います。

 

⬇︎ 上の方で推奨されない場合の中に入ってる肝障害ですが、肝臓の食事ではない他ので有効とされる例もあるので、肝臓においても肝障害の種類や程度によって適切な処方食を与えましょうという内容です。