次はワクチンの話題と思ってたけど、前回ズーノーシス(人獣共通感染症)のお話出たので今回はこちらにしてみようと思います。我々開業獣医師やスタッフにとっては身近で深刻な問題であり、また多くの獣医師が食中毒や安全な食の確保の現場で日夜活躍している専門領域に関する話題です。

 

 

 

⬇︎ 2013年版厚労省のHPからの抜粋です。日本は島国で衛生観念強い国民性と先輩獣医師達の努力もあって、海外に比べると感染症は少なく数十種類程度と書かれてます。ただし今現在国内で約100種類程度が発見され報告例も増えてるみたいです。

理由としてはペットブームで海外から輸入されるペットや食材等も増えたり、家族の一員という事でペットとの距離が近くなり体を撫でたり口移ししたり一緒に寝たりという状況なのと、昔に比べて高速道路網も発達して人も動物も移動が簡単に行われてるのも一因かと思います。海外では狂犬病がごく普通に発生してる国も多いので、むやみに野生動物などに触れないようにとも書かれていますね。

 

 

⬇︎ 2021年版も出ておりました。ここにはまだ入ってませんが、今だ収束が衰えてない新型コロナウイルスもコウモリ由来のウイルスと言われてますので今後は含まれるかもしれません。もっともコウモリから直接ではなく人から人にも爆発的という部分が若干違うところでしょうか。

後述しますが我々の業界にとってより現実的なのは、マダニ媒介によるSFTSと猫ひっかき病と皮膚糸状菌症かと思います。

 

<狂犬病>

 

犬や猫に限らず人間も含めた全ての哺乳類に感染し、いったん発症したら致死率ほぼ100%の恐ろしいウイルス感染症です。潜伏期間は長く平均で1〜2ヶ月、発病すると目の前の物全てに噛み付こうとする「狂躁型」、終始麻痺状態の「麻痺型」、苦痛で水が飲めない「恐水型」などの症状を出して亡くなります。

 

確定診断は死後剖検による脳の組織検査によるとされ、生前診断は極めて困難で一般臨床現場では症状と隔離状態での経過観察によるしかない現状です。過去鑑定期間中に又咬傷事故起こして話がこじれたケースもあるので、万一誰かを噛んでしまったら可哀想でも1〜2週間の絶対隔離状態が必要です。日本では発生してないから大丈夫!と思いたい気持ちは理解出来るけど、噛まれた子供の親御さんにしてみればそういうわけにもいかず訴訟問題にも発展しかねないので要注意です。

 

日本では1956年を最後に発症例はなく、これもひとえに島国である事と毎年の予防注射の徹底のおかげとされています。ちなみに秋田港には外国船籍の船が時々入港してる様ですが、絶対に船内の動物を診てはいけないというお達しがあるのも狂犬病の恐ろしさ故になります。

 

狂犬病(14年ぶりの発症者確認)

 

<猫ひっかき病>

 

猫による引っ掻き傷や咬傷から細菌が侵入し、通常は傷やリンパ節の腫れと発熱を伴いほとんどは自然に良くなるものの、まれに意識障害や脳症を引き起こし重篤になる事もある感染症です。ノミがいる猫の場合はグルーミングの際に口腔内や爪の間に細菌が付着して感染するとも言われ、定期的なノミ駆除や完全室内飼いが推奨される理由の一つでもあります。

 

<トキソプラズマ症>

 

過去に妊娠・出産された女性なら少なからず聞いた事あるかと思うけど、免疫機能が落ちてる老人や乳幼児、特に妊娠中の感染は胎児への影響が非常に大きいとされる寄生虫疾患です。

 

感染経路は主に原虫のオーシスト(虫卵)を農作業時や猫のトイレ掃除等の時に経口摂取したり、生肉を直接あるいは生肉を切った際に使用した包丁を洗わずに生野菜など調理して感染すると言われています。現実的に大人は農作業の後やトイレ掃除で手が汚れたら手洗いするので感染の可能性は低く、生肉等調理の際に感染するケースの方が多いとも言われてます。

 

なお妊婦さんの場合は過去に感染してて抗体がある場合はほとんど心配なく、あくまで妊娠中に初感染すると胎児に影響出やすいので事前に産婦人科で検査を受けておくと良いかと思います。そしてもし陰性で心配なら猫の抗体価検査(外注検査)を行なって、もし猫が陽性なら大丈夫、陰性ならこれから猫が感染しないよう生肉食べさせたり外出させないようくれぐれも注意が必要です。分かりにくいと思いますが、結論は「感染歴の無い妊婦さんが、感染歴の無い猫と暮らすのは要注意」という事です。

 

<エキノコックス症>

 

主に北海道のキタキツネや放し飼いの犬の糞便から感染します。近年は東北や愛知県でも発生例が報告されてるようですが、青函トンネルの開通や愛犬を連れての北海道旅行などの際に感染とかも言われてます。

感染すると徐々に肝臓を蝕み、肝臓の腫れや黄疸や腹水などを伴って死に至ります。唯一の根治的治療は外科的切除という本当にこれも恐ろしい感染症です。

 

ちなみに我々の間では北海道旅行などの際、道端で亡くなってる犬や狐を見ても素手で触らない触れさせない(子供にも犬にも)という意味がここにあります。勿論すぐに手洗い出来ればこの限りではありませんが難しいですよね。あと意外と大事なのは、感染の可能性ある動物のいる沢水を生で飲まないという事です。とにかく診断も治療も難しい感染症なので予防が1番重要となります。

 

<皮膚糸状菌症>

 

皮膚病は日常的に非常に多くこれまでにも何度か取り上げてますが、今回は的を絞って皮膚糸状菌症(しじょうきんしょう)についてです。これは真菌といういわゆるカビ(人では水虫やタムシ)が原因で、以前にもお話し皮膚病してるけど主に猫に多い真菌です。

 

通常痒みはあまり無く、主に顔周りや四肢に円形様の脱毛とフケが見られたりします。犬であれば薬用シャンプーやひどい場合は抗真菌剤内服もありますが、猫は嫌がったり副作用の問題もあって当院では主に外用薬主体で行なっています。この場合可能な限り毛刈りが必要ですが、刈った毛からも人間や他の猫にも感染する可能性あるので刈り終わった後は念入りに掃除機かけないといけません。人と同様再発しやすいので、場合によっては長期間の治療が必要となります。

 

ちなみに犬では「マラセチア」というカビが多くなり、高温多湿で皮脂が多いと増殖してフケやベタつき感や「赤み」「痒み」を伴って独特の匂いを発したりもします。垂れ耳のワンちゃんの外耳炎の原因としても多いですね。

なおこれらカビは元々は常在菌で健康な犬や猫にも存在するけど、まだ小さかったり年老いたり何らかの原因で「免疫力」落ちると発症しやすいと言われてます。ちなみに糸状菌は時に人間へも感染するけど、マラセチアは健康な犬や人間には感染しません。

 

 

<SFTS(重症熱性血小板減少症候群>

 

今回我々にとっては1番重要で、おそらく今後は切実な問題となり得る恐い感染症がこちらです。以前にも取り上げたけどマダニ媒介の感染症、文字通りマダニによって媒介される致死率3割近い感染症です。厄介なのは農作業等で直接噛まれるのみならず、感染した猫に噛まれたり、更には血液等体液との接触から人から人への感染例も報告されてる事です。

 

日本全体が亜熱帯化してきてる影響かマダニは年々当院でも発見例が増えており、今現在人への感染報告例は首都圏で止まってるようだけど東北でも近いうちに発見されるであろう事は想像に難くないです。今後は直接噛まれないよう野外に出る時は長袖長ズボン着用を心がけるのは勿論、1番重要なのはマダニ被害に遭わないよう毎月猫に駆除剤を投与し、極力外出させないよう室内飼いとする以外に方法はありません。

 

また亡くなった方の中には地域猫の面倒みてた女性がいたようで、不幸にも面倒みてた時に噛まれて発病し治療の甲斐もなく亡くなってしまったそうです。有効なワクチンや治療の薬剤は無いというのが本当に怖いところで、狂犬病ですら発症前なら助かるチャンスもあるというのにこちらはひたすら対処療法で本人の体力や免疫力任せという感じです。

 

<レプトスピラ症>

(10月2日)

少し時間かかってしまいましたが、ようやく最後のレプトスピラになりました。今回は色々調べ直して整理したのと、今週はものすごく忙しいというか慌ただしい1週間で、伝染病の治療続いたり異物誤飲で胃切開したり尿路結石でやむを得ずペニス切り取る手術(会陰尿道路設置術)したりと、通常はあまり無い治療や処置が続いたたため一気にアップ出来ない状況でした。

 

さて本題のレプトスピラです。これはスピロヘータという細菌感染症ですが、ネズミなどの齧歯類の腎臓に定着し尿から感染します。熱帯〜亜熱帯地方に多いとされ日本では沖縄での報告例が多いみたいですが、以前ある調査では東北でも抗体検査「陽性」の犬が結構多くみられ、人では現在でも全国的に散発的に発生してるようです。

 

ちなみに数年前県内でも犬で発生例があったのでやはり要注意ですね。問題は初めから典型的症状出てればともかく、「発熱・食欲不振・貧血・腎不全・肝障害・黄疸」などどれもコレ!っていう典型的症状でもなく、ほとんどは症状進行と共に疑って確定診断へと至るので難しいところです。ワクチンである程度予防出来る感染症ですが、打ってない場合やネズミの多い地域でお散歩多い場合などは一度は考慮しないといけない細菌感染症です。

 

 

次回は伸び伸びになってしまった「ワクチン」です。新型コロナワクチンも色々議論(異論?)ある様だけど、とりあえず色々な角度から改めて取り上げてみようと思います。